even if
『ななちゃん!』
約束の日、五分前に駅に着いて、キョロキョロしていたら、渋谷くんが私を見つけてくれた。
…ヤバい。
綾部さんみたいに、心の中で呟いた。
杢グレーのロゴTシャツに、ヴィンテージのデニムパンツ。
こんな、シンプルな服装を、ここまでかっこよく着こなす人、初めて見たよ…。
渋谷くんが、私をまじまじと見つめる。
今日のために、また大人買いしてしまった、自分の服を見下ろした。
白のレース素材のワンピースに、淡いグリーンのカーディガン。
サンダルにかごバッグ。
それから、ハートのネックレス。
いつもよりも、ガーリーな私。
渋谷くん、なんか言うかな…。
『…ななちゃん、かわいい』
渋谷くんが、そう言ってくしゃっと笑った。
私は思う。
たぶん今日、心臓もたないわ。
夏休み最後の日はよく晴れた。
まだ10時なのに、ぐんぐん気温は上昇中。
『いこっか』
渋谷くんは、嬉しそうにそう言うと、券売機に向かう。
『どこまで買うの?』
私が聞くと、
『とりあえず、遠くまで行こ』
そう言って、終着駅までの切符を買った。