even if

『ななちゃん!』


約束の日、五分前に駅に着いて、キョロキョロしていたら、渋谷くんが私を見つけてくれた。


…ヤバい。


綾部さんみたいに、心の中で呟いた。

杢グレーのロゴTシャツに、ヴィンテージのデニムパンツ。

こんな、シンプルな服装を、ここまでかっこよく着こなす人、初めて見たよ…。

渋谷くんが、私をまじまじと見つめる。

今日のために、また大人買いしてしまった、自分の服を見下ろした。


白のレース素材のワンピースに、淡いグリーンのカーディガン。
サンダルにかごバッグ。
それから、ハートのネックレス。
いつもよりも、ガーリーな私。

渋谷くん、なんか言うかな…。

『…ななちゃん、かわいい』

渋谷くんが、そう言ってくしゃっと笑った。


私は思う。

たぶん今日、心臓もたないわ。


夏休み最後の日はよく晴れた。
まだ10時なのに、ぐんぐん気温は上昇中。


『いこっか』


渋谷くんは、嬉しそうにそう言うと、券売機に向かう。


『どこまで買うの?』

私が聞くと、


『とりあえず、遠くまで行こ』

そう言って、終着駅までの切符を買った。



< 106 / 200 >

この作品をシェア

pagetop