even if
『この電車はこの駅止まりです。お降りのお客様はお忘れもののないよう、ご注意願います』


駅員さんのアナウンスを聞いて、渋谷くんが立ち上がった。

駅に止まるたび、人が下車して、電車内はだんだん、空いてきている。


『乗り換えよう』

渋谷くんはそう言って笑う。


『どこに行くの?』

連絡通路を歩きながら、私は尋ねる。


『とりあえず、また終着駅まで行こう』

渋谷くんは、楽しそうにそう言って、切符を買った。


少し前を歩く渋谷くんの背中を見ながら、私はわくわくする。


私たちは、2時間近く電車に揺られて、結局三回も電車を乗り換えた。

電車の中で、私たちは並んで座って、ずっとおしゃべりをしていた。
好きな音楽のこととか、釣り広告に乗ってるゆるキャラのこととか、免許が取れたら、ランドクルーザーに乗りたいとか。
たまに、体をひねって、窓の外を見る。
そして、外の景色を見るふりをして、こっそり渋谷くんの横顔を見たりした。
たぶん、渋谷くんも私と同じことをしていたと思う。
横を見たら、景色を見ていたはずの渋谷くんと、何度も目があったから。
そのたびに、私たちはくすくすと笑った。

心臓もたないわ、と思ったけど、大丈夫みたい。
渋谷くんといると、ドキドキするけど、やっぱり居心地がいい。



『うゎ、もう昼じゃん』

ごつい腕時計をチラリと見て、渋谷くんは言う。

『ななちゃん、お腹すいた?』

うんうん、と頷くと、渋谷くんは私の頭を優しく撫でた。

『次で降りよっか』

私たちは隣の県まで来ていた。

見慣れない景色。

わくわくする。


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