even if
海に着いたのは、四時頃だった。
お盆もすぎ、夏休みの最後の日、海にはもう泳ぐ人はいなかった。
それどころか、誰一人いなかった。
海岸沿いを、二人で歩いた。
渋谷くんは、手を繋いだまま、ときどき、親指で私の手の甲をなでた。
一緒に海に行きたいと思うのは、好きな人だけだと思う。
少なくとも私はそう。
他のこと…例えば映画なら、そんなに好きじゃない人とでも観れる。
だけど、こんな季節外れの海を、ただ一緒に見たいと思うのは、相手が渋谷くんだから。
二人で一緒にいるだけで、私の心は満たされていく。
きれいな石を見つけるたび、私たちは足をとめて、それを手に取って眺めた。
『ななちゃん、ほら』
岩の下を覗いていた渋谷くんが、小さなかにを捕まえて見せてくれた。
『うわ、かわいい』
灰色の二センチほどのかには、ハサミをゆらゆらさせている。
『かにのおうちを作ってあげよう』
私は岩を探して、砂の上に丸く並べた。
『はい、どうぞ』
私が言うと、渋谷くんは笑って、かにを離す。
かにはあっという間に、岩を登って脱走すると、岩場に隠れてしまった。
『あぁぁ…』
唖然としていると、渋谷くんが、そりゃそうなるよな、と笑って言った。
お盆もすぎ、夏休みの最後の日、海にはもう泳ぐ人はいなかった。
それどころか、誰一人いなかった。
海岸沿いを、二人で歩いた。
渋谷くんは、手を繋いだまま、ときどき、親指で私の手の甲をなでた。
一緒に海に行きたいと思うのは、好きな人だけだと思う。
少なくとも私はそう。
他のこと…例えば映画なら、そんなに好きじゃない人とでも観れる。
だけど、こんな季節外れの海を、ただ一緒に見たいと思うのは、相手が渋谷くんだから。
二人で一緒にいるだけで、私の心は満たされていく。
きれいな石を見つけるたび、私たちは足をとめて、それを手に取って眺めた。
『ななちゃん、ほら』
岩の下を覗いていた渋谷くんが、小さなかにを捕まえて見せてくれた。
『うわ、かわいい』
灰色の二センチほどのかには、ハサミをゆらゆらさせている。
『かにのおうちを作ってあげよう』
私は岩を探して、砂の上に丸く並べた。
『はい、どうぞ』
私が言うと、渋谷くんは笑って、かにを離す。
かにはあっという間に、岩を登って脱走すると、岩場に隠れてしまった。
『あぁぁ…』
唖然としていると、渋谷くんが、そりゃそうなるよな、と笑って言った。