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大きな岩の上に、二人で並んで三角座りをした。

『ななちゃんは、なんで保健室の先生になろうと思ったの?』

渋谷くんが、海を見ながら尋ねる。

『…高校2年の時にね、いろいろ悩んでた時期があって』

『いろいろ?友だちのこととか?』

『…まぁそんなとこ…』

ここはスルーしてほしいんだけど…。

『あ、男のことだろ』

渋谷くんは、眉を寄せて私をのぞきこんだ。

『……え、違うよ』

『ほんと、嘘つくの下手だな』


う…バレてる。

渋谷くんは、あきれたように私を見て、ため息をつく。

『まぁ、いいや。それで?』

『でね、くらーい気持ちで廊下を歩いてたの。そしたらね、保健室の先生に呼ばれたの』


――保健室は泣いていい場所だから、なんでも話して――


先生はそう言った。


『私、それまで保健室って怪我する子が行く場所だと思ってたから、縁がなくて、あんまり行ったことなかったの。でも、先生は私が悩んでることを一発で見抜いてくれて、相談に乗ってくれたの』


――もっと、自分を大切にしなさい――

その一言が、私に勇気をくれた。
あの人と別れる勇気を。

『それから、私も保健室の先生になりたいな、って猛勉強したの』


渋谷くんは、黙って聞いてくれた。
絶え間なく続く波の音が、心地よかった。

『まだ一年目だしさ、私まだまだ仕事も出来ないけど、もし目の前に悩んでる生徒がいたら、私が受け止めてあげたいんだ』


渋谷くんは、私をチラリと見て、

『ななちゃんのそういうところが、俺好きなんだよな』

と言った。
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