even if
『…ななちゃん』

渋谷くんが、小さな声で私を呼んで、ギュッと抱き締めてくれる。

『ななちゃん、好きだよ』

私は渋谷くんの胸に耳をあてる。
渋谷くんの心臓の音と、渋谷くんの匂い。
そして、絶え間ない波音。


渋谷くんが、私の髪の中に手を滑らせて、耳の後ろあたりに手を置くと、そっと上を向かせた。

顔を上げると、私の唇に渋谷くんが優しくキスをする。

そのまま、耳元と首筋に唇を滑らせた。

シトラスのいい香りと、渋谷くんのひんやりとした唇の感覚。

もうだめた。
やっぱり、心臓がもたない。


渋谷くんが、首筋に何度も唇を這わせるから、思わず声にならない吐息がもれた。

『…も…むり』


鎖骨に揺れるハートにキスをされた時、私はとうとう降参した。

自分でも、目がトロンとしているのを感じる。


渋谷くんは、鎖骨から唇を離して、私の顔を見た。


『…ちょっと…ななちゃん、その顔は反則だろ』


赤い顔でそう言うと、パッと目をそらす。


『ななちゃん、誘惑しないで、ってば…』

『…してないよ』

『あーもう、かわいいな』

渋谷くんは、早口でそう言うと、私をギュッと抱き締めた。

『本当…かわいいな』


もう一度言って、髪に唇をつけた。
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