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それからしばらくして、また教頭に呼ばれた。

応接間に通された私は、あの凶器になりうる灰皿だけをずっと見つめていた。

『昨日、また生徒から匿名で電話がありました』

あ、そうですか。
それがなにか?

『平井先生と男子生徒のことは勘違いだった、平井先生に謝っておいてほしい、と言った内容でした』

『はぁ…そうですか…』

『今回のことは、私の胸に閉まっておきます』

へぇ、胸に引き出しでもあるんですか?

『しかし、生徒たちはそういった噂話が大好きですから、今後も気をつけて下さい。話は以上です。戻って下さい』

『はぁ…失礼します』


私はのろのろと立ち上がり、保健室に戻る。

カーテンをのぞいた。
そこには誰もいない。

…あ、そうだった。
私ったら、何してるんだろう。

渋谷くんは、もう来ないんだった。


最後まで、教頭は相手が誰かまでは分からなかったみたいだし、渋谷くんはもう来ないんだから、これで大丈夫だろう。

渋谷くんの将来も、未来に続く真っ直ぐな道も。

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