even if


『…っう…』

酔っぱらって緩んだ涙腺が崩壊したのは突然だった。

『…ふぇぇぇん…』

私は泣いた。
思いっきり。
こどもみたいに。
たぶん、すごい泣き顔で。


『私はすぐやれちゃう女じゃないもん…』


『…えっ?えっ、えっ?なに?なにが?』


桜井先生がオロオロとしている。


『や、やれちゃう…?なっ、なにが?え?俺、そんなつもりじゃ…』


『うわぁぁぁぁん』


『…ひ、平井先生?…あの、俺、そんなつもりじゃ…』


桜井先生がものすごく焦って、私の周りを右往左往している。


その様子を見ていたら、なんだか今度は笑えてきた。
酔っぱらってるから、自分でもよくわからないや。



『…ええっ?平井先生?今度はなにっ?』

いちいち大袈裟に驚く人だ。


『…しゅみません。大丈夫です。おやしゅみなさい』


私は笑いながら涙をふいて、お辞儀をすると部屋に入った。


桜井先生はいい人だな。
お人好しで…
そう、誰かに似てると思ったら、弟の雄太に似てる。

笑いながら、また泣いて、泣きながら、こうやって渋谷くんの前でも思いっきり泣いてやればよかった、と思った。
あんな風に、嘘なんかつかないで、
『私は大好きだったのに』
って大声で泣いてやればよかった。

例え、それが相当惨めなことだとしても。


一回くらい、大好きだって、言えばよかったな。
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