even if
気持ちのいいお天気だったので、布団を干すことにした。


屋上に出ると、ここで渋谷くんとキスをしたことを思い出して、鼻の奥がツンとする。


『あーぁ、やだやだ』

シーツを干しながら呟く。
天気はいいけど、風は冷たい。



『本当やだ。やだやだ。思い出しちゃうじゃん。バカみたい』

『なにを?』




え?
この声…。
まさか。




バッとシーツをめくると、そこに渋谷くんがいた。


『…なんでここに…』


渋谷くんをまともに見るのは、三ヶ月ぶりだった。

キャメル色のベストを着て、相変わらず着崩した制服姿の…渋谷くん。


『…なんでいるのよっ…』

声が震えた。


渋谷くんの前髪は長かった。
うっとおしそうな前髪。
その隙間から私を見つめる猫みたいな瞳。

やっと…
やっと大丈夫になってきたのに。


『なんで声なんかかけるのよっ』

どうして私を苦しめるのよ。

毎日、必死で忘れようとしてるのに。


『…別に』

『別に、ってなによ!?早く授業に戻りなさいよっ!』



私を見つめないでよ。


『…分かった』


早く…早くあっちに行ってよ…。


渋谷くんが、屋上の重たい扉に向かって歩いていく。

あと少し。
お願い。
涙、こぼれないで。


私は反対側を向いて、上を見上げる。
バカバカしいほど青空。



『…なぁ』

目にたまった涙がこぼれないように集中していたら、背中に声をかけられた。
大好きな、渋谷くんの声。


『…なんでまだいるのよ?』

『…先生、桜井と結婚すんの?』


あぁ、もう最悪。

本当、この男バカ。

『バカじゃないの?あなたに関係ないでしょ』

『…すんの?』

『どっちでもいいでしょ』

『…しないの?』

『それ、重要?聞いてどうするの?』




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