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穏やかに話すおとうさんを見ながら、私は呆気にとられていた。

『うちはね。家内を早くに病気で亡くしてるんです。碧からお聞きですか?』

私が黙って頷くと、おとうさんはやっぱり、と呟いた。

『一人暮らしをしていることも?』

少しためらって、もう一度頷く。

『本当に、先生を信頼してるんだな。あいつ』

呟くようにそう言って、おとうさんはまた穏やかな笑顔で私を見た。


『妻をなくしてから、碧とは私は…なんと言いますか、親子というより友だちなんです。戦友といったほうがいいかな』

『…戦友、ですか?』

『母親をなくした碧を私が支えなくてはいけなかったんですが、私も妻をなくしてかなり余裕をなくしてましたから。支える、というより、支え合ってなんとかここまで来たんです。だから、戦友』

『そうなんですか。…すてきな関係ですね』

私がそう言うと、おとうさんは嬉しそうに笑った。

『医者になれとか、ましてや小児科医になれ、なんて言ったことはないんですが、あいつと一緒に仕事ができればいいな、とずっと思ってました。さきほど、小児科医になるもんじゃないと言いましたから、矛盾してますけどね』

その言い方から、おとうさんが本当は小児科医の仕事に誇りを持っていて、その仕事が大好きだという気持ちが伝わってくる。




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