even if
みんな帰ったかな…?

保健室の窓からグラウンドを見ると、生徒の姿はもう見えなかった。


時計を見上げると、もう1時だ。

式は11時に終わったから、2時間も写真撮影をしていたことになる。



もう生徒も帰ったみたいだし、私もそろそろ、帰ろうかな。


そう思って、帰り支度をしていた時だった。



コンコン…


ノックの音がした。


『はぁい?いるよ』

声をかけると、ドアが開いて、ぴょこんと顔を出したのは、

『松原さん…』

『ななちゃん先生、今いい?』


松原さんはにっこり笑って入ってくると、丸いすにちょこんと座った。


『碧、まだ後輩に写真撮影を頼まれててさ』

『そっか』

『碧、九州の医大に行くの。だから、しばらく遠距離』

『そっか』

『しばらく会えないけど、夏休みとかに泊まりにいっちゃおっかな、って思ってる』

『そっか』

『大学を卒業したら、結婚しようって約束してるの』

『そっか』



穏やかに微笑みながら、私はそれだけ繰り返す。
他に返す言葉は見つからない。

ただ、ひとつだけ、あなたに言いたいことがある。


『渋谷くんをしあわせにしてあげてね』


『…ぷっ。それ反対じゃない?普通、碧に私をしあわせにしてあげてね、って言わない?』

『そうだね。間違えちゃった』

私はにっこり笑う。

普通、間違うかぁ?そう言いながら、松原さんはおかしそうに笑った。





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