even if
『私、ずっと碧ばっかり見てたから、碧がななちゃん先生を好きなことに気づいてたの。でも、碧の片想いだと思ってた。相手は先生なのに、無理に決まってるのに、バカじゃないの、って思ってた』


相槌を打つのも忘れ、私はただ松原さんの声に耳をすませる。


『どうにかして、振り向かせようと思ったのに、碧はどんどんななちゃん先生に夢中になっていく。私には笑いかけてくれないのに、ななちゃん先生といる時はすごく楽しそうで…つらかった。苦しくて…どうにかしたくて…私…』

泣きそうな声だけど、松原さんは泣かなかった。
意地でも泣くもんか、とでもいうように、唇をきゅっと結んだ。

『教頭に、電話したのは私…なの』

――生徒から匿名で電話がありました――

あれは…松原さんだったのか…。


『平井先生が男子生徒とできてるみたいです、って。相手は誰だかわかりません、って』


やっぱり。
教頭は相手が渋谷くんとは知らなかったんだ…。


『それで、碧にこう言ったの。「碧とななちゃん先生のこと、教頭が勘づいてるよ。このままだとななちゃん先生くびになるよ」って』


松原さんは、胸の中の重い空気を全部吐き出すように、深いため息をついた。


『「私と付き合おうよ。碧にちゃんと彼女がいるって分かったら、誤解もとけて、ななちゃん先生も学校やめずにすむんじゃない?」って…言ったの』



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