even if
『渋谷くんを探しているの?』

私もなんだけど…。

『うん。話があって、朝から休み時間になるとずっと追いかけてるのに、すぐ逃げちゃうの』

まじムカつくー、と言いながら、松原さんはその場で小さい円を描いてぐるぐると歩き回る。

『渋谷くんとクラス近いんだっけ?』

『ううん、あたしD組であいつA組』

『そっか。じゃあ逃げられちゃうね』

『帰るとき、絶対つかまえてやるんだから。お仕置きしてやるわ』

その言い方がなんだかかわいくて、私は思わずにこりとする。

『仲いいのね、渋谷くんと』

『中学から一緒なんだ。ま、仲いいかは微妙なんだけど』

『そっかぁ』

二人が一緒にいるところを想像すると、美男美女でお似合いなカップルだと思った。

『あ、そろそろ昼休み終わるよ』

時計を見ると、昼休みはあと5分で終わりだった。

『本当だ。ななちゃん先生、ありがとね』

ばいばいと手をふって松原さんが出ていくと、デスクに座り込んだ。

『続きしよ…』

渋谷くんの髪型よりも、明後日が締め切りの提出資料の方が大事だ。

松原さんと話して冷静になった私が、パソコンの前に座った時、ちょうど五時間目の始業を告げるチャイムが鳴った。



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