even if
『…これはたぶん無理だと思うけどさ』

ためらいながちな言葉に、思わず顔を上げると、碧くんは苦笑している。

『他のやつに笑いかけないで』

…それは、難しいかもしれない。
でも…。

『なるべく、頑張る。…笑わないように』

『うそ。ごめん。それはさすがに無理だよな。ななちゃんにはやっぱり、笑っててほしい』

よかった。
碧くんに、にっこりと笑いかける。

碧くんが目を細めて私を見た。
どちらからともなく唇を重ねる。

『笑いかけるのは、我慢する。でも、他のやつにさわらせないで』

『分かった』

『ここの…』

碧くんはTシャツのすそからひんやりとした手のひらを滑らせると、わき腹あたりを撫でた。

『…ほくろ、誰にも見せないで。俺のだから』

くすぐったさにくすくすと笑いながら、私は頷く。




『…すぐに消えちゃうと思うけど』


そう言って、碧くんは少し考えるそぶりをしたあと、私の首筋に唇をつけた。

しばらくして顔を上げた碧くんは、

『つけちゃった。キスマーク』

いたずらっぽく笑う。



『これからのななちゃんは俺が全部もらうから』



碧くんが、そう言って、私を抱き締める。


泣かない。

絶対に泣かない。

胸の中で、唇を噛んだ。



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