even if
『そう言えば、お話ってなんでしょう?』

桜井先生が三杯目のおかわりを店員さんに頼んだとき、急に思い出して聞いてみる。

『あーっと、すみません。そうだった』

桜井先生はおしぼりで手を拭きながら、姿勢をただす。
つられて、私も背骨をしゃんと伸ばした。

『渋谷のことなんですが』

あぁ、渋谷くんのことか。
よく考えたら、数学教師の桜井先生と養護教諭の私の共通の話題と言ったら、それしかなかった。

『渋谷くん…ですか。髪切りましたね、彼』

どうでもいいことなんだけど、とりあえず言ってみた。

『そうですね。受験生なんだから切れってずっと言ってたから、良かったですよ。まぁ少し色が明るいのが気になりますが』

担任からも言われていたのか。

『渋谷、最近ますます保健室に行ってますよね』

『そうですね。毎日、来てます。だいたい一時限で戻るんですが…。あ、もしかして成績に響いてますか?』

眉にしわを寄せて聞いてみると、
桜井先生はいやいや、と手を振る。


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