even if
『前に渋谷のようすを見に保健室を覗いたときあったでしょ?あの時、俺びっくりしました』

ああ、そう言えば、一度渋谷くんと保健室にいるときに、桜井先生が来たことがあった。

その日、お昼休みが終わってから保健室に来た渋谷くんとソファに座って話をしていた。

初めは、デスクに座っていたんだけど、ソファに座った渋谷くんが自分の横をポンポンと叩き、『ななちゃんおいでよ』と言ったのだ。

暇ですアピールをするために横に座ったものの、ソファは小さくて、二人で座るとぎゅうぎゅうだった。

私たちはそこで色々な話をした。
私が一人暮らしをしていることを知ると、渋谷くんは眉をひそめて、
『ななちゃん、一人暮らし?大丈夫なのかよ?』
と聞いてきた。

なにが?
首をかしげる私に、渋谷くんは、
『戸締りとかちゃんとしてる?飯はちゃんと食ってるの?』
とお母さんみたいなことを聞いてきた。

『渋谷くん、私いくつだと思ってるの?今年24だよ?渋谷くんより6つも年上なんだから』

『たった6つじゃん』

渋谷くんはつまらなそうにそう言うと、
『料理とか出来んの?』

と聞いてきた。

『もちろん。結構うまいんだから』

『今度、作ってよ』

あまりにも自然にそう言われたので、あやうく『いいよ』というところだった。

『ハンバーグがいい。肉じゃがもいいな。からあげも。あとオムライスも。あ、でもグリーンピースは入れないで』

あれだけは無理なんだよなぁ。
笑いながら、話し続ける渋谷くんを見てあきれていた。

作ってあげるなんて、一言も言ってないのに。

その時、ノックの音がして、『渋谷ー?』と桜井先生が入ってきたんだ。

渋谷くんは、桜井先生を見た途端、
『頭が痛い…』
と呟いて、カーテンの向こうに消えた。

そう言えば、
『作ってあげないよ』って結局言ってなかったなぁ。
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