even if

sun catcher

『ねぇ、ななちゃん、これなんていうの?』

窓際に吊るされた三センチほどのクリスタルボールを、ひょいと長い指でつまみながら、渋谷(しぶたに)くんが振り向く。

ここに来た初日、私が椅子に乗っておっかなびっくりつけたものだ。

それを背伸もせずにつまめることに、少し嫉妬する。

『サンキャッチャーだよ』

インテリアの一種で、太陽の光を浴びると、部屋の中にプリズムを発生させる。

『サンキャッチャー?』

『そう。きれいでしょ?ほら、虹の赤ちゃん』


午後の光を浴びて、この白い部屋の中は色とりどりの光が乱舞していた。

『うん、きれい』

そう言いながら、渋谷くんはデスクに座っている私の頭の上に、自分の顎を乗せる。

『なっ、何するの!?』

私の背中にぴったりとくっつく、シャツ越しの胸板。
いきなりの温もりに肩がビクンと上がる。

『何って…顎をのせてる』

渋谷くんが話すと、頭の上で顎の骨がカクカクと動く。

『やめなさい』

『なに、その言い方。せんせーみたい』

『みたいじゃなくて、私せんせーだから』

頭の上の顎をどかせようと、頭を横に振ると、ガクッと顎が外れて、

『キャッ』

私の急な反撃に、体勢を崩した渋谷くんが、後ろからドカッともたれかかってきた。

耳のすぐ横に、渋谷くんの顔があるのを感じて、かぁっと耳が赤くなる。

『ごめんね、ななちゃん』

私の肩に手を置いて体を起こすと、渋谷くんはスッと離れて、

『じゃあ、授業戻りまーす』

入ってきた時と同じように、気だるそうに出ていった。
ヒラヒラと右手を振りながら、振り返りもせずに。
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