even if
『ななちゃん先生、おはよう』

校門のところで、ポンと肩を叩かれた。

振り返ると、松原さんだった。
今日もきれいな黒髪を風になびかせて、スラリと立っている。


『ななちゃん先生、今日ちょっと遅くない?てか、寝癖ひどいよ?』

『うん。ちょっと寝坊しちゃって。…寝癖、そんなひどい?』

『うん…残念ながら』

昨日、シャワーして髪を乾かさずに寝てしまったから、今朝ひどい頭になっていた。

『今日はアイロン持ってきてないなぁ。持ってきてたら、直してあげるのに』

『ありがとう。大丈夫。そう言えば、昨日は渋谷くんにお仕置きできた?』

歩きながら尋ねると、松原さんは悔しそうに、
『ううん、また逃げられたの。今日こそ、絶対つかまえてやる』

『渋谷くんに何かされたの?』

疑問に思って聞くと

『ううん。もう一年近く、付き合って、って言ってるのに、相手にしてくれないから』

『付き合って、ってどこに?』

『…ふふっ。どこに、じゃなくて、私の彼氏になって、ってこと』

思わず足が止まった。

『ななちゃん先生、驚きすぎ…』

松原さんがあきれた顔で振り返った。

『絶っ対、あきらめないんだから!』

頬をプッとふくらませると、『寝癖ひどいけど、それもかわいいよー』
と叫んで先に行ってしまった。

私も慌てて、保健室に向かって走る。
最近の若い子は、そんなことをさらっと言えちゃうからすごい、と思いながら。
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