even if
<留守にしてます。ご用の方は職員室まで>
と書かれた札を出して、
校内巡視という名のお散歩をした。

たまに、息抜きをかねて、こうして外に出ると、普段、保健室に来ない生徒と話す機会も出来て楽しい。

あまり、不在には出来ないから、早く帰るつもりだったけど、休み時間になってしまい、生徒たちに囲まれた。

『ななちゃん先生、こんなところで何してるのー?』
二年生の女子が後ろから抱きついてくる。

『今日、寝癖ひどいね』
『あ、朝帰りしたんでしょー』

きゃあきゃあと歓声をあげる女の子たちに、
『ち、違うってば』

慌てて弁解しても聞いてはいない。

『ばいばーい』

散々、からかって女の子たちが去っていくと、向こうから校長先生が歩いてくるのが見えた。

『平井先生、人気者ですねぇ』

短い白髪の頭を撫でながら、穏やかに笑う校長先生は、採用試験の時に、唯一、私を推薦してくれた人物だそうだ。

経験も乏しく、特に成績優秀でもなかった私が、ここに採用されたのは、校長先生のおかげ。

『保健室から、賑やかな笑い声が聞こえてくるのは、いいですな』

『すみません。騒がしくしてしまって』

私が謝ると、

『いやいや、保健室は怪我の処置をしたり、具合の悪い人が休養するためだけのものではないですからな』

はっはっは、と笑って校長先生は優しい瞳で私を見る。

『この学校は楽しいですか?』

『はい。とっても』

力強く頷くと、校長先生は、結構結構、と笑った。



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