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放課後、綾部さんと笹井さんが遊びに来た。


今日の保健体育の授業が性教育だったらしい。

『なんか、いまいちよく分からなかったよ』

綾部さんは、丸いすに座って、くるくると回りながら話す。

『出産のビデオとか見せられちゃってさ。生命の誕生は奇跡だっていうの』

笹井さんも、うんうん、と頷く。

『で、そのあとに、避妊の話になるとね。望まない妊娠をしないために、コンドームを使いましょう、っていうわけ』

綾部さんは、私の正面でピタリと止まると、

『奇跡っていうくらいなんだから、ものすごく低い確率で妊娠するんでしょ?だったら、避妊なんてしなくても大丈夫なんじゃないの?』

綾部さんは顔をしかめる。

『意味わかんない。どっちだよ』


そうか。
そうきたか。


うんうん、と相槌を打ちながら、言葉を探す。

『確率は低いけど、もし妊娠して困るんだったら、やっぱり避妊はするべきよ。0%じゃないんだし。それに、病気だってうつされたら大変なんだから』

『それは習ったよ』

『相手の人が、ちゃんと綾部さんのことを好きなら、避妊してくれると思うけどな』

私がそう言うと、綾部さんは恥ずかしそうに下を向いた。

『相手なんていないもん』

『いつかよ。いつか。』

『でも、友だちはもうしちゃった子もいるよ』

笹井さんが口を挟む。

『ねぇ。やっぱり初めての時って痛い?怖かった?』

綾部さんに聞かれて、ギクッとする。

『…それは、人それぞれじゃないかな』

『でも、血が出るんでしょ?なんか痛そうだなぁ。…ね、初体験は何歳の時?』

『それは、個人情報だからひみつ』

『なにそれー』

でも、と私は続ける。

『すごく好きな人だったら、痛くも怖くもないよ』

たぶん、だけど。

『いつするか、じゃないの。誰とするかが大事だと私は思うな』

『そりゃそうね』

綾部さんと笹井さんは笑って言った。



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