even if
笹井さんの寝ていたベッドをきれいになおしていると、いつの間に来たのか、渋谷くんが壁にもたれて私を見ていた。

『ノックしなさいって言ってるのに』

わざとらしく、ため息をついてみせる。

『あぁ、ななちゃんか。ジャージなんか着てるから、誰かわかんなかった』

驚いたふりなんかして。
白々しい。

『どうしたの?』

『頭が痛い。あと腹も痛いかも』

そう言いながら、ベッドに向かって気だるそうに歩いてくる。

『休む?』

『んーん、ななちゃん見たら、治った』

『じゃあ、授業に戻りなさい』

たまには教諭らしく、冷たく言うと、

『なんでジャージ着てるの?』

私の攻撃を華麗にスルーして、渋谷くんが不思議そうに聞く。

『プールの水質検査に行ったら、水かけられた』

『誰に?』

渋谷くんを見ると、思いっきり眉にしわをよせている。

『二年生の生徒』

『男子?女子?』

『それ、重要?』

『重要。どっち?』

『男子。はい、じゃあ教室に戻る』

『もう、何やってんだよ』

扉を指差す私をまたも華麗にスルーした。

『服は?』

『干してる』

渋谷くんは、保健室を見渡してタオルハンガーに干した水玉のブラウスを見ると、あぁあれか、という顔をした。

それから、スタスタと近づき、ブラウスを手に戻ってくると、

『もう乾いてるよ』
私に差し出す。

『ほんとだ。よかった』

『早く着替えなよ』

『え?なんで?』

渋谷くんは見るからにイライラとしている。

『いいから、早く』

『意味がわからない。しかも、渋谷くんいたら、着替えられない』

『分かった。じゃあ出てるから、着替えてよ』

そう言って、バタンと出ていった。


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