even if
『渋谷といえば』

手羽先を食べた手をおしぼりで拭きながら、桜井先生は思い出したように言う。

『平井先生、3Dの松原、ご存じですか?』

『知ってますよ。中学から一緒なんですよね、あの二人』

そうそう、と桜井先生は笑いながら、続ける。

『松原がね、渋谷のこと追いかけ回してるんですよ。毎日毎日。なのに、渋谷すっげー冷たいんです。』

まだやってるんだ、松原さん。

『もう可哀想でね、松原が。まぁ、渋谷もある意味、可哀想なんですけどね』

追いかけられてる渋谷くんを想像して、私はくすくすと笑う。

『あいつ、ほんと、モテるからなぁ。こないだも、二年か一年の女子に告白されてました。断ってましたけど。無理、って一言。振り方が残酷すぎるでしょ』

『それは残酷ですねぇ。もっと上手に言えばいいのに』

『ねぇ。本当に興味ないんでしょうね。他人に』

そうだろうか。
私は唐揚げを咀嚼しながら考える。

渋谷くんが他人に興味ない?
クールな見た目とは違って、意外とありありだと思うんだけど。
私の思い違いかな。

『…平井先生はお付き合いされてる方はいないんですか?』

桜井先生が、前を向いたまま、ぼそっと聞いてきた。

『はいっ?』

思わず聞き返すと、私をチラッと横目で見て、

『いや…ちょっとした好奇心です』

と言い訳をする。

『いません…けど』

『すみません。セクハラで訴えられるな』

桜井先生は、はははと笑って、

『ビール、おかわりいかがですか?』

私のジョッキを見ながら聞く。

『あ、いただきます』

残ったビールを飲み干してそう言うと、桜井先生はもう一度、楽しそうに笑った。

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