even if
今日は私が出します、と言ったのに、またもやグイグイと店の外に押し出されてしまった。


『次回はお願いします、って言ったじゃないですか!』

そう抗議すれば、

『じゃあ次回こそ、お願いします。次は俺、もっと飲みますから』

と言って先に歩き出してしまった。

『…わかりました』

渋々、お財布をバッグにしまっていると、桜井先生がもうタクシーを停めて待っている。

『すみません。あの…ご馳走さまでした。ありがとうございました』

ペコリと頭を下げて、タクシーに乗り込んだ時、

『こちらこそありがとうございました。楽しかったです』

桜井先生がふっと笑ってそう言った。

『おやすみなさい』

『おやすみなさい、平井先生』



タクシーは静かに走り出した。



シャワーを浴びて時計を見たらもう12時だった。
きちんとドライヤーをして布団に入ると、昼間の渋谷くんを思い出した。

こどもみたいに布団をかぶった渋谷くんの方じゃなく、
『ジャージ姿、かわいかったから。他のやつに見せたくなかった』
そう言った渋谷くんの方を。
よしよし、と頭をなでた渋谷くんの方を。

明日、来ないかなぁ。
明後日は来るかなぁ。

そんなことを考えている自分に気づいて、言い訳をした。

桜井先生に頼まれてるからね。

早く寝よう。
そう思えば思うほど、渋谷くんの顔がちらついた。

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