even if
あの日から一週間、渋谷くんが来てない。

保護者用の保健だよりを作成しながら、ドアに目をやる。

こどもみたい、っていうのは言い過ぎたかもしれない。
…別にどうでもいいんだけどさ。

出来上がった保健だよりをプリントアウトすると、教頭に確認してもらうために、保健室を出る。





『…平井先生』

保健だよりをチラリと見ただけで、プリントを返された。
縁なし眼鏡をかけた教頭は、大袈裟なため息をつく。

『誤字脱字が多すぎます。やり直してください』

『えっ、どこですか?』

プリントをのぞきこむと、

『ここ、"衛生"が"衛星"になってます』

『…すみません』

『それから、市教委に出す調査の回答書、明日までですよ』

『…はい。分かってます』

失礼します、とお辞儀をして、職員室を出ようとすると、

『生徒とおしゃべりもいいですが、仕事はちゃんとしてくださいよ』

と言われた。

『あ、はい、すみません』

謝罪して、もう一度お辞儀をしたけど、教頭は見てなかった。



廊下を歩きながら、プリントを見返した。
誤字脱字が多すぎ、って2箇所だけじゃん。
…2箇所あれば充分か。
へこむ…。


保健室に戻って、パソコンと睨み合っていると、雨が降りだした。
梅雨入り宣言が出て、最近はうっとおしい天気が続いている。

今日も、渋谷くんは来ない。
別にどうでもいいんだけど。




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