even if
『渋谷先輩、今日は来てないの?』

綾部さんが大袈裟にがっくりと肩を落とす。

『さっきまでいたけど、教室に戻ったよ』

『なぁんだ。もう少し早く来たら会えたのか。残念』


綾部さんは眉を八の字にして口を尖らせる。
コロコロとよく変わる表情は見ていてたのしい。


『あ、今、人の顔見て笑った!?ひどーい』

『しーっ、ここは保健室です』

人差し指を唇にあてて、小声で言いながらも、私はくすくすと笑ってしまう。

『今年、去年に比べてお客さんが多いのは渋谷くん目当てなのかな?』

聞いてから、一年生の彼女に去年のことを聞くのは酷だと気づく。

『うーん、私もななちゃん先生と同じで今年入ったばっかりだから、わかんないなぁ』

もっともな答えに私が、

『だよね』

と言うと、今度は綾部さんがくすくすと笑い出した。

『渋谷先輩もだけどさ、ななちゃん先生目当てっていうのもあると思うよ』

『えぇ?私目当て?』

『そ。ななちゃん先生、かわいいもん。優しいし。ここ、矢鱈落ち着くもん』

綾部さんはさっき笹野さんが座っていた、小さい二人かけのソファにストンと腰掛けながら、伸びをする。

『落ち着くかぁ』


それは…いいことなのかしら?

保健室が落ち着くというのは…。

まぁ、落ち着かないと言われるよりはいいよね。





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