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時計を見ると、ちょうど5時だった。

カーテンの隙間からベッドを覗くと、渋谷くんがもぞもぞと動いている。

『具合どう?帰れそう?』

ベッドに近づきながら尋ねると、寝転んだまま、うーん、と伸びをして、

『帰れるけど、一人では無理』

『じゃあ…桜井先生呼んでくるね』

『桜井はいい。ななちゃん、一緒に帰ろうよ』

ゆっくり起き上がって、あくびをした。

『歩ける?』

『大丈夫だって』

ベッドから降りると、足元もずいぶんしっかりしている。

『分かった。うちまで送ってあげる。ちょっと待ってて』

“明日までですよ。”

教頭の声が頭をよぎったけど、提出書類は明日一日頑張ればなんとかなるだろう。

定時で帰るなんて、初めてで少し嬉しい。

パソコンの電源を落とし、バッグを手にすると、ソファに座っている渋谷くんに声をかける。

『帰ろっか』

渋谷くんは、黙って頷くと、ゆっくり立ち上がった。



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