even if
渋谷くんの部屋は最上階の一番端だった。

私の部屋より、広いしきれい。
それに片付いている。

軽い劣等感に襲われながら、靴を揃えて脱いだ。
渋谷くんは、リュックをおろすとソファに向かって投げ、ベッドにドサッと寝転んだ。


『ねぇ、ほんと、大丈夫?』

ベッドに近づいて聞くと、もともと緩いネクタイをさらに緩めながら、

『大丈夫じゃない』
とだるそうに言う。

『氷枕は?』

『ない』

『体温計は?』

『ない』

『鎮痛剤は?』

『ない』


これじゃあ何もできないじゃないか。

『ななちゃん、ここにいて』

熱のせいか、少し甘えた声で渋谷くんがそう言って、私は少し泣きそうになった。

これはきっと母性本能だ。
もしかしたら、渋谷くんは、亡くなったお母さんの影を私に重ね合わせているのかもしれない。
だから、こんな風に感じるのだろう。


『分かった。ここにいるから、寝てね』

ベッドの脇に座って、おでこに触れると、やっぱり熱かった。

お母さんが、小さい子にするように、茶色の髪を撫でてみた。

柔らかい髪。
気持ちいい。


渋谷くんは少し驚いたように、目を丸くしたけど、すぐにまた目を閉じた。

『落ち着く…』

小さくそう言ったあと、息をひとつ吐いて、寝てしまったようだった。


しばらく頭を撫でたあと、部屋を見渡してみた。

1DKの部屋には、小さなローテーブルとソファ、テレビにベッド、それに本棚以外の家具はなかった。


本棚の中に、大量の参考書があるのを見て、驚く。
なんだ、ちゃんと勉強してるんだ。

部屋は黒や白といった色しかなく、男の子の部屋は、こんなに殺風景なものかと驚いた。

最初、きれいに片付いている、と思ったけど、ただ単にものが置いてないだけだった。




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