even if
渋谷くんの心臓の音が聞こえる。
熱のせいか、かなり早い。

渋谷くんのワイシャツのパリッとした手触り。
シャツからも、布団からも渋谷くんの匂いがする。
クラクラする。
一ミリも動けない。

しばらく、二人ともじっとしていた。
寝たのかな…。
顔を見ようと思って少し動いたら、またギュッと抱き締められた。

『逃がさない…』

渋谷くんが言った。

逃げようなんて思ってないのに…。

…逃げようなんて思ってない?

どうしてなんだろう?
あんまり動かない頭で、グルグルと理由を探した。
養護教諭が、生徒に抱き締められて、逃げようとしない理由を。

渋谷くんが、そっと私の髪を撫でた。
撫でながら、私の髪に唇をつけた。

一回
二回

その柔らかなキスで、私は意識を手放した。
考えることを放棄して、ただ渋谷くんを感じていた。

理由は明日考えよう。

今は、渋谷くんをただ感じていよう。

私の全部で。



< 55 / 200 >

この作品をシェア

pagetop