even if
そっと、渋谷くんの背中に腕を回した。
渋谷くんがビクッとする。
自分はいろいろするくせに…。

かわいい。

顔を上げたら、赤い顔をした渋谷くんと目があった。

至近距離で見つめ合う。

猫の目だ。

薄暗い部屋の中で、渋谷くんの少し潤んだ目が妖しく光る。

『…なに?』

沈黙を破って、先に声を出したのは渋谷くんだ。

『…なんでも』

首を小さく横に振って、胸に顔を埋めた。

『…見るなよ』

頭の上から、ぶっきらぼうな声が聞こえる。

『どうして?』

『…恥ずかしい』


こんなことをしておいて、何を言ってるんだろう。

おかしくなってきて、くすくすと笑う。

『笑うなよ』

そう言う渋谷くんの声も笑っている。

渋谷くんがくすくすと笑うと、それに合わせて渋谷くんの胸が上下する。


『ねぇ、おかゆ作ったよ。食べる?』

顔を埋めまま聞くと、

『食べるけど、あとで』

渋谷くんが腕に力を込めて言う。

私も渋谷くんの背中に回した腕に力を込めた。



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