even if
『渋谷先輩に会いたかったなぁ。あの人、すっごくかっこいいよね。思わない?』

私は首をかしげる。

『うーん、綺麗な顔してるな、とは思うし、人気あるのも分かるけど、私は何とも思わないなぁ。そもそも生徒だし』

『渋谷先輩ね、あんなにかっこよくてモテるのに、いっつもダルそうじゃない?あんまり女子と話しないみたいだし。でもその硬派な感じがまたかっこいいよね』

あれ?私の話、聞いてた?

『彼女とかいるのかなぁ?でも、私は見てるだけでいいなぁ。見てるだけで目の保養になるよ。あー、でも少しくらい話してみたい気もする。たぶんすっごく緊張して、何も話せないだろうけど』

綾部さんでも、話せないなんてことあるのかしら?
目の前で弾丸トークを繰り広げる姿を見ながら、そんな疑問を感じる。

『あ、そろそろ帰るね』

好きなだけ話して満足したのか、ソファの真正面にある壁掛け時計をチラッと見て、綾部さんは立ち上がる。

カーテンの隙間から、ベッドをチラッと覗いて、笹野さんが寝ているのを見ると、声をかけずに、そっと出ていった。

始業を始めるチャイムが鳴り、しばらく保健室に静寂が訪れる。

笹野さんを起こさないように、静かに引き出しを開けて書類を取り出すと、私はものすごいスピードでキーボードを叩き始めた。
< 6 / 200 >

この作品をシェア

pagetop