even if

水道で洗って泥をきれいに落としたあと、消毒をする。

『はい、これで終わりです』

ぱしっ、と大きな傷テープを貼ると、桜井先生は、いてて、と言いながらも、軽く笑った。

何がおかしいのだろう。
よく笑う人だ。



『…渋谷くん、昨日休んでましたけど、今日は元気そうですか?』


なんとなく、桜井先生から目をそらしながら聞いてみる。

『渋谷ですか?あぁ、元気ですよ。熱があったらしいです。今日はまだ来てませんか?』

『はい。でも、そろそろ来るかもしれませんね』


消毒用の綿球をなんとなく見ながら、答える。


別にたいして興味はないんですけどね。
そんな風に見えますように、と願いながら。


『平井先生、手小さいですねぇ』

ふいに桜井先生が驚いた声を出した。

え?と桜井先生を見ると、目を丸くして私の手を凝視している。

『そうですか?』

私は手を広げて、自分の手のひらを見つめた。

『大きくはないと思いますけど、普通ですよ』

『いやぁ、小さいですよ。だってほら』

桜井先生は自分の手のひらを私の手のひらにぴったりと合わせた。


『ほら、俺の第二関節までしかないじゃないですか』

『ああ、ほんとですね』

確かにこうしてみると、自分の手がものすごく小さく感じた。

『今気づいたんですか?』


桜井先生は、ははは、と声に出して笑う。


その時、扉がパタンと開いて、渋谷くんがそこに立っていた。


『頭痛い』


渋谷くんは、開いたままの扉にもたれて、ぶっきらぼうに言った。


『渋谷ー、また授業抜けてきたのか』

桜井先生が、私からパッと手を離し、渋谷くんに近付く。

渋谷くんは、桜井先生を無視して、私に向かってもう一度、
『頭痛い』

と言った。



桜井先生はため息をついて、

『平井先生、すみません。宜しくお願いします』

私に向かって軽くお辞儀をすると、

『一時限で戻ってこいよ』

渋谷くんの肩を片手で軽く叩いてから、保健室を出ていった。


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