even if
『じゃ、失礼して』

ベッドに座ると、ギィと音がした。


渋谷くんは、私が座ると嬉しそうに膝に頭をのせてきた。

『寝ないんじゃなかったっけ?』

ためらいながら言うと、

『寝ないよ。こうして話するだけ』

そう言って、私の顔を見上げている。

『えーっと、なんだっけ?…そうそう、約束はね、おやじとの約束』

『お父さんのこと、好き?』

『尊敬はしてる』

『お父さんみたいなお医者さんになりたい、と思う?』

『そうだな…。あいつ仕事ばっかりだからな。小児科医が少ないから仕方ないけど。まぁ、でも悪くないかな、あんなのも』

『そっか。私も風邪引いたら診てもらおうかな。渋谷くんのお父さんに』

『うちのおやじ、小児科医だって』

『あ、そうか』

渋谷くんが、膝の上で笑うから、くすぐったい。

『俺が医者になったら、ななちゃん診てやるよ』

『え、なんかそれ恥ずかしい…』

『なに想像してんの?エッチだな』

『そっちこそ』

渋谷くんの頭をかるくはたく。

『…お母さんのこと、聞いてもいい?』

『いいよ』

『いつ頃、なくなったの?』

『んー、俺、かなり小さかったから、あんま覚えてないんだよな。幼稚園くらいかな?おととしまでばあちゃんと一緒に住んでた。ばあちゃん死んでから、一人暮らししてる。うちにいても、おやじあんま帰ってこれないし』

高校一年から、あの部屋で一人で住んでたんだ。
寂しく…ないのかな。

『ななちゃんは?家族は?』

『私は…普通だよ。お父さんは市役所で働いてる。お母さんは本屋さんでパートしてて、弟は大学生。あと、犬が一匹。チョビって名前』

『犬種は?』

『ミニチュアダックス。バカなの』

『バカなの?』

『そう。残念なくらいにバカなの。毛の色はこんな感じの色』

私は渋谷くんの髪をなでる。

『まじかよ。チョビと同じ色かよ』

渋谷くんが嫌そうな声を出す。

『でも、かわいいよ』

『チョビが?俺が?』

『内緒』

『弟ってどんな人?いくつ?』

『弟は雄太っていうの。もうすぐ二十歳。なんていうか…すごくいいやつなの。お人好しっていうか、まぁ…バカなの』

『なにそれ』

渋谷くんがくすくすと笑う。

『会いたいな。ななちゃんの家族に』

『…普通だよ』

『会いたいんだよ。いつか会わせてよ』

『…うん』

そのまましばらく渋谷くんの髪を撫でていたら、渋谷くんは寝てしまった。

髪の色はチョビに似てるけど、私の膝の上で眠る渋谷くんはまるで猫みたいだな、と思った。
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