even if
二年生が修学旅行から帰ってきた。

昼休みの保健室は、いつもに増して、賑やかになった。

『ななちゃん先生、これお土産。クラスの何人かで買ってきた』

差し出された袋には、マーライオンのイラストが載っている。

『シンガポール、どうだった?』

『思ってたより、マーライオンがしょぼかった』

生徒たちは、その時の衝撃を思い出したのか、くすくすと笑う。


『シンガポール・フライヤーはよかったよ』

『マリンライフパークも。見てこれ』

デジカメを差し出される。
大きな水槽の前で、笑う生徒たちが写っている。

『うわぁ、水族館なんだ。きれい』

『世界最大の水族館なんだって』

『へぇ…いいなぁ。シンガポール。行きたかった』

『うんうん、一緒に行きたかったねぇ』

女子生徒が慰めるように、私の肩を抱いた。

どっちが生徒だかわからない。

『お土産、見てもいい?』

袋をのぞくと、マーライオンの形をしたクッキー、マンゴーのタルト、それにマーライオンのボールペンが入っていた。

『うわぁ、こんなにたくさん。ありがとう』

『ななちゃん先生にお土産買うって言ったら、他の子たちも買うって言うから、じゃあみんなで買おっかって』

『本当?嬉しいな』

マーライオンの姿をしたボールペンをしげしげと眺める。

『たぶん書きにくいけど、そんな形だから。でもかわいいでしょ』

『うん。すっごくかわいい』

もったいなくて使えない。
大切にしよう。
生徒たちからのお土産。


『あ、そろそろチャイムなるね』

私がそう言うと、生徒たちは一斉にぞろぞろと保健室を出ていった。

笑顔で手を振りながら。
< 69 / 200 >

この作品をシェア

pagetop