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『これ、お土産?』
デスクに並べられたお土産をつつきながら、渋谷くんが尋ねる。
六時間目がもうすぐ終わる頃、渋谷くんは来た。
今日は朝から来ないから、真面目に授業に出てると思っていたのに。
『あと、少しなんだから、最後まで出たらいいのに』
『一日一回、必ずくることにしてるから』
『一日一回…?なにその決まり。それなら休み時間か、放課後に来たらいいじゃない』
渋谷くんはマーライオンのボールペンを角度を変えながら見ている。
『休み時間は他のやつらが来るから。これでも、一日一回で我慢してるんだけど』
ボールペンをことり、と置いて、渋谷くんは私をじっと見つめた。
何も言い返せない自分がいた。
『修学旅行、シンガポールだって』
仕方なく話題を変えた。
『去年もシンガポールだった?』
うん、と頷いて、丸いすに腰掛けながら、渋谷くんが聞く。
『ななちゃんはどこだった?』
『私?私は北海道だった』
『へぇ、いいじゃん』
『よかったんだけどさ、ほとんどバスだったから。あんまりよく見れなかった。時計台も思ってたより小さかったし』
話ながら、あの時の衝撃を思い出して、笑ってしまう。
さっきの二年生と同じように。
『もう一回、行きたいな。今度はレンタカー借りて、ゆっくり。自分の好きなとこ回りたい』
『ななちゃん、免許持ってるの?』
渋谷くんは、信じられない、と言う顔をしている。
『持ってるよ。まぁ…あんまり運転しないけど…』
『ななちゃん運転、下手そうだもんな』
ズバリと言い当てられて、私は苦笑する。
『俺が免許取ったら、一緒に行こうよ。北海道』
渋谷くんが笑って言った。
ちょっとその辺まで行こうよ。
それくらいの軽い誘い方で。
『…え?』
思わず、顔を上げた。
渋谷くんは丸いすから立ち上がると、ベッドに向かった。
『ななちゃん、運転しなくていいよ。俺がするから』
最後に笑いながら、そう付け加えた。