even if
渋谷くんは、ふっと笑った。

『なんだ、そんなことか』

私の捻り出した答えを、そんな言葉で笑い飛ばした。


『…そんなことって』

つられて思わず力なく笑ってしまう。

はは。



『ななちゃん、こっち来て?』

渋谷くんが、ベッドから降りて私を呼んだ。
私がそばに行くと、ゆっくりカーテンをしめた。

白い世界に二人だけ。


『もし、先生と生徒じゃなかったら、一緒に行けるの?』

渋谷くんがうつむいた私をのぞきこむ。

『…わからない』

『なんでわからないの?』

『わからない』



渋谷くんは、仕方ないなぁ、と言うように笑った。


『ななちゃん、わからないことばっかりじゃん』


『だってわからないんだもの』


わからないんだよ。

保健室に来ないのは良いことなのに、来るのを待ってしまうことも。

その茶色の髪や、長い指や、滑らかな頬に触れたい、と思うことも。

渋谷くんの匂いに包まれて、心臓の音を聞きながら、目を閉じたいと思うことも。

一緒に北海道に行けたら、と思うことも。



『わからないんだもの』



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