even if
触れた時と同じように、そっと唇が離れると、私と渋谷くんは見つめあった。

『ななちゃん』

唇が触れそうな距離で私の名を呼んだあと、私を抱き締めて、髪にキスをした。

『俺が生徒で、ななちゃんが先生だから、なに?そんなの関係ないよ』

私をきつく抱き締めてそう言った渋谷くんに、私は何も言えなかった。

『卒業したら、生徒じゃなくなるよ。だから、それまで待っててよ。北海道でもどこへでも、一緒に行こうよ』

渋谷くんの胸の中で、私はただじっとしていた。


『俺はずっとななちゃんだけ見てるから。ななちゃんも、俺だけ見ててよ。他の男のものにならないで。触れさせないで。約束して』

本当は、渋谷くんとの約束を守れるはずがないと知っていた。
18歳の渋谷くんのいう「ずっと」が永遠ではないことを、24歳の私は知ってしまっていた。


それでも、私は渋谷くんの胸の中で、一度だけ頷いた。


今だけは、この白い世界で、渋谷くんと生きていると思いたかった。

自分が先生で、渋谷くんが生徒であることを、忘れていたかった。



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