even if
バスタブに浸かって、そっと指で唇に触れた。


渋谷くんの唇の感触を思い出して、耳が赤くなるのを感じる。

ブクブクと鼻までお湯に浸かって、唇の感触を忘れようと思ったけど、うまくいかなかった。

キスをしてしまった。
生徒と。


それが、許されないことであると知っていたのに。



『キス、してもいい?』

『なんか言ってよ。駄目だとか、嫌だとか』


渋谷くんはそう言った。

もし、拒否をすれば、きっとしなかっただろう。

渋谷くんは、そういう人だ。

『ああ見えて、意外と律儀』

そう言った松原さんは、言い得て妙だと思う。





どうして私なんだろう。

あんなにかわいい子に、あれほど思われているのに。

キスをしたって、好きだと言ったって、私と渋谷くんの距離は埋まらない。
いくら、約束をしたって、ひとつも守れはしない。
先生と生徒は、恋愛など出来ない。



『罪悪感』という言葉が浮かんだ。
先生とキスをするという罪悪感。
背徳感と言った方が正しいかもしれない。

渋谷くんは、きっとそれに溺れているのだろう。
ただ、それだけだ。


恋などしてない。

渋谷くんも、
それから、
私も。
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