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来月、実施される健康診断の資料を作りながら、ふとグラウンドに目を向ける。

グラウンドでは三年生の男子が、体力測定をしていた。

その中に、さっき保健室に来ていた、渋谷くんの姿を見つけて、私はため息をついた。

去年いたのは、女子高だったし、私自身、高校まで女子高だったので、いまいち男子生徒との距離がつかめないでいる。

特に、渋谷くんは、私がここにきてからというもの、しょっちゅう保健室に来る。

いわゆる不定愁訴というやつ。

どこも悪くないのに、体の不調を訴えては、毎日のように保健室にやってくる。

何度か担任教諭の桜井先生には相談したのだけど、渋谷くんは医大を目指しているとっても成績がいい生徒で、授業を抜けても進学に問題はないらしい。
緩めたネクタイに長めの茶色い髪を見ていると、とてもそんな風には見えないのだけど。


だから、って来すぎだよ、と思うけど、不調を訴えるのだから、仕方ない。

『はぁ、終わったぁ』

思いきり伸びをすると、椅子がギシッと音を立てた。

あ、やばい。
笹野さんを起こしてしまう。

そっとカーテンを覗くと、笹野さんと目が合った。

『ごめんね。起こしちゃった?』

『いえ、起きてたんだけど、ちょっとボーってしてたの』

『そう。具合はどう?』

『もう大丈夫そう。授業、戻ります』

ずいぶん、顔色もよくなっている。
これなら大丈夫だろう。

『さっき、真奈美も言ってたけど』

出ていく前、ドアのところで振り向いて、笹野さんは言った。

『私もここ矢鱈落ち着く。ななちゃん先生がいるから』

ぺこりと頭を下げて出ていく笹野さんに、私はそっと微笑みかけた。



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