even if
シーツを取り込んで、保健室まで戻った。

渋谷くんは布団を運んでくれて、

『さっそく寝よう』
と嬉しそうだった。

『よく寝るよね』

半ばあきれて言うと、

『ななちゃんだって、こないだ寝てたじゃん』

こないだ…。

渋谷くんの腕の中でまどろんだことを思い出して、シーツに顔をうずめた。
太陽の匂いがする。

渋谷くんが、私を見てくすくすと笑うのが分かった。

『あっ、碧いたー!!』


保健室の前で大声を出したのは、松原さんだった。

その声を聞いた途端、渋谷くんは足を止めて、方向転換をしようとしたけど、布団を抱えてたせいで逃げ遅れた。


『碧ー!』

松原さんは嬉しそうに、渋谷くんの背中にしがみつく。

『…なんだよ』

ため息とともに、渋谷くんは心底うんざりといった顔をしたけど、はた目から見ていると、ものすごく…
お似合いだと思った。

悲しいほどに。


『今日、一緒に帰ろうよー』

『無理』

『いいじゃん、帰ろうよー』


『ななちゃん先生、ごめん、ドアあけて』

松原さんを完全に無視して、渋谷くんは私を振り返る。

松原さんが、ほんの一瞬だけ、泣きそうな顔になるのを、私は見た。


『あーおーいー!!』

すぐに松原さんはふざけた声を出して、プッとふくれてみせると、

『もういいわ。ばーか!』

校舎に向かって乱暴に歩いていってしまった。

『…いいの?』

渋谷くんの顔を見ずに、小さな声で聞いた。

『いいよ、別に』

『よくないよ!』

シーツを抱えたまま、私は走り出した。
< 81 / 200 >

この作品をシェア

pagetop