even if
『松原さんっ!!』


渡り廊下で呼び止めた。


『ななちゃん先生…シーツ…』

振り返った松原さんは、私の抱えたままのシーツを見て、少し笑った。


『…大丈夫?』

松原さんは、ん?と少し首をかしげて、

『大丈夫よ。慣れてるから』

言葉とは裏腹に顔を伏せた。
長い髪が、さらりと落ちた。


私たちの横を、生徒たちが笑いながら通り過ぎていく。


『保健室は…泣いていい場所だから。いつでもおいでね?』


彼女をこんな顔にさせてる理由に、私も含まれるのだろうか。

それでも言わずにはいれなかった。

『私でよかったら、いつでも聞くからね』

こんな私でもよかったら。


松原さんは顔を上げた。
本当にきれいな子だと思った。


『ありがとう、ななちゃん先生』


チャイムが鳴ると、

『やば』

と一言呟き、走り出した。


シーツを抱えたまま見送ると、保健室に向かって歩き出した。

シーツからはもう太陽の匂いはしなかった。
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