even if
いつもは見上げているその顔が、ちょうど目の前にあった。


気が付けば、私は渋谷くんの首に腕を回して、キスをしていた。

手のひらに感じる柔らかな髪の毛。
私は目を閉じていたから、わからないけど、渋谷くんはきっと驚いて、目を開けてる。
感じる。


――どうしたら俺を好きになってくれるか、いっつも考えてる――


ばかだね
渋谷くんは
そんなこと考えなくていいのに

私の気持ちは
ちゃんとここにあるよ


おずおずと、腰を抱かれた。
私が腕をあげてるせいで、いつもより、ぴったりくっついた身体。


ゆっくりと唇を離したら、今度は渋谷くんの方から、唇を重ねてきた。


『ななちゃん…誘惑しないでよ…』

おでこをくっつけて、渋谷くんが甘く私を叱る。

『誘惑なんか…してないもん』

『してるよ。してる…俺はされてる』


そう言うと、渋谷くんはパッと私から離れた。

耳まで真っ赤に染めて。


『…おやすみ』

そう言うと、くるりと背中を見せて、いきなり走り出した。

渋谷くんの姿はあっという間に消えていた。


『おやすみ、渋谷くん』



18歳の渋谷くん。


空を見上げたら、お星さまと目があったような気がした。



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