even if
期末テストの間は、渋谷くんは来なかった。

そういえば、中間テストの時もそうだった。

そういうところは、意外と真面目なんだな、と思った。
それから、そういうところが、渋谷くんのいいところだな、とも。




放課後、パソコンに向かっていると、ノックの音がした。

『ななちゃん先生、今大丈夫?』

『もちろん。どうぞ』

笑って私は立ち上がったけど、本当は全然大丈夫なんかなかった。
そこにいたのが、松原さんだったから。

松原さんは、ゆっくり入ってくると、私の目の前の丸椅子に腰かけた。

私も、ゆっくり座った。
松原さんに、向き合うのは勇気のいることだった。
思わず、目を閉じた。


『ななちゃん先生、聞いてくれる?』

静かな声に、目を開けた。
聞くんだ。
私は保健室の先生なんだから。


『保健室では泣いてもいいって言ってくれたよね。だから…もしかしたら、泣くかもしれないけど、聞いててね』


松原さんは、自分のプリーツスカートの裾をじっと見ながら、そう言った。

『蒼のこと、なんだけど』



私が一度も口にしたことのない名前。

『結局、マフラーなんか渡せなかった。マフラーどころか、何も。どうせ、受け取ってなんかもらえない。それでも、平気なふりをするほど、私強くないから』

松原さんは、はぁ、と息を吐いた。

『本当は大丈夫なんかじゃないの、私』

うん、とだけ私は言った。
他に何が言えるだろう。

『蒼とはね、中学から一緒だって前に話したっけ?』

もう一度、私はうん、と頷く。

『違うクラスだったんだけどね。ずっと嫌いだったの。あいつ、全然勉強してないくせに、頭いいじゃない?今だって、毎日保健室でサボってるくせに、特進クラスだもんね』

渋谷くんの部屋にある大量の参考書が、頭をよぎった。
でも、私は何も言わなかった。

『私なんて、めちゃくちゃ頑張ってこの高校入ったのに、なにあいつ、って。なにあの髪の色。なにあのダルそうな態度。なのに、無駄に顔はいいし、背は高いし。頭よくて、かっこいいなんて、絶対に性格悪いわ、と思ってた』


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