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次の日の午前中、プール水の水質検査に出掛けると、ちょうど渋谷くんのクラスが授業中だった。

プール開きをしてから、今まで一ヶ月近く、色んな時間に来たけど、渋谷くんのクラスに来たのは初めてだ。


採水をしようと、プールサイドに立つと、裸足の足の裏が焼けるように熱い。

プールの水面が日光を反射してキラキラと光っている。


ちらり、と渋谷くんを見た。
クラスメイトと何か話している姿を見ていたら、ドキドキして試験管を落としそうになった。
そういえば、保健室以外で渋谷くんを見ることってあんまりないな。

ちょうどその時、授業が終わり、男子生徒たちがわらわらとプールから上がってきた。

『ななちゃん先生、ばいばい』

口々に言いながら、生徒たちは、更衣室に向かう。


『おっ、ななちゃん先生じゃん』

バスタオルで頭を拭きながら、渋谷くんが近付いてきた。


水に濡れた髪と、裸の上半身。

まともに見れない。

渋谷くん、細マッチョだったんだ…。


『どしたの?』

渋谷くんは不思議そうに、目をそらした私をのぞきこむ。

『別に…なんでも』

試験管を持って、慌てて立ち上がった。

『滑るから気をつけて!』

渋谷くんの声がしたけど、振り返ることはしなかった。
いや、出来なかった。



保健室に帰ると、ホッとした。

『私は変態か』

ため息をついた。
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