even if
音がする…。

私を呼んでいる。

シーツから、手だけ出して、音の出所を探した。


『…もしもし…』

『夏々子?ハッピーバースデー!!』

『…あぁ、理恵?ありがと…』

寝起きの耳に飛び込んできたのは、地元の友だちの声だった。


『あんた、寝てたでしょう?何時だと思ってるの?』

スマホを耳に当てたまま、ごろりと仰向けになって時計を見る。

『…11時』

『そうよ。11時。しかも、今日はあんたの誕生日でしょうが!』

口うるさい友だちの説教が始まる。

『しかも!しかも、今日は土曜日なのよ?それなのに、こんな時間まで寝てるなんて…予定とかないの!?あんたは干物女かっ!』

『…うるさいなぁ。予定くらいあるもん』

『え?』

『…なによ?』

『……』

『もしもし?』

あれ?電波悪い?
こんなことをしても、意味がないと分かっているのに、スマホを振ってみる。


『もしもーし?理恵?』

『あんたっ、彼氏、出来たの!?うわぁ、まじかぁ!!夏々子にも、やっと彼氏ができたかぁ…。どんな人?何歳?いつから付き合ってるのよぉ!!聞いてないよ。あたし!』

『え?あの…ちょっと?』

『写メ送ってよー。どんな人?何歳?どこで知り合ったの?あ、学校とか?えっ!もしかして…』

『なによ…』

ドキッとして、思わず起き上がる。

『相手は先生かっ?』

電話の向こうで、ぐふふ、と笑う友だちの顔が見える。

そっと息を吐き出した。

『違うわよ。彼氏なんかいないもん』

『はぁ?なにそれ!散々期待させといて!』

そっちが勝手に期待したんでしょうが…

『同僚で、いい感じの人もいないわけ?二人で飲みに行く人とか』

二人で飲みに行く人…それは桜井先生のことだろうか。
でも、別にいい感じなわけじゃないし。

…よって。

『いないなぁ』

『もう…仕方ないわね。夏々子、お盆に帰って来るでしょ?その時、コンパ開いてあげる。ちゃんと帰ってきなさいよ。みんな待ってるんだから』

『分かったよ』


友だちにお礼を言って、電話を切った。
心配してくれるのは、ありがたいけど、コンパは断ろう。
今の私には、必要ないから。




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