even if
『ななちゃん、誕生日おめでとう』

渋谷くんの隣に立つと、渋谷くんは目を細めて私を見た。

『ありがとう』

誕生日に聞きたいんだよ、前に渋谷くんがそう言った気持ちが、今はっきりと理解できた。


渋谷くんは、背中に背負った大きな布のリュックから、ごそごそと小さな箱を取り出すと、私の手にぽん、と乗せた。


『ななちゃん、これ誕生日プレゼント』

『ええ?こんなの…受け取れないよ』

手の上の白い箱には、シルバーのリボンがかかっている。

『…なんで?』

『だって、私は渋谷くんになにもあげてないよ?』

渋谷くんは、なんだ、と呟いて、ふわっと笑う。

『私、先生だから、って言うかと思った』

そう言われて初めて、あぁそういう理由もあったのか、と思った。

『いいんだよ、そんなの。俺がななちゃんにして欲しいからあげるの。もらってよ』

私の頭を撫でながら、渋谷くんはそう言った。

『…ありがとう。見ても…いい?』

うん、見て見て?こどもみたいに、そう言う渋谷くんの目の前で、私はそっとリボンをほどき、箱をあける。


『…かわいい』


それは、ピンクゴールドのネックレスだった。
そっと触れると、シンプルで華奢なオープンハートが揺れた。


『…すごく…かわいい。渋谷くん、ありがとう』

『そんなに、いいものじゃないけど…』

渋谷くんは、照れ臭そうにくしゃくしゃと自分の後頭部をかいた。


『ななちゃん。これ、してみてくれる?』

渋谷くんは、そう言うと、ネックレスを指先でつまみ、私の首につけてくれた。


胸元で、ハートがしゃらり、と揺れる。

『似合うと思った』

そう言うと、照れ臭そうに笑って、下を向いた。
それから、ふっと顔をあげると、少し身をかがめて、私の胸元のハートに、そっと唇をつけた。



渋谷くんの髪の毛から、シトラスのいい香りがした。
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