恋は盲目 Ⅱ 〜心を見せて〜
「本気よ。…私だけを見てくれない男な
んていらない。さようなら…」
「…………」
緩んだ手から抜け出しお店を出た。
店の外で、数秒立ち尽くしたが開かない
木製扉。
終わった……
もう、2度と訪れることはないだろう。
思い出が詰まったあの場所は辛すぎる。
「早希…聞いてる⁈」
「……ごめん。ボーとしてたわ。忙しく
て疲れてるのかも…。先に行くね」
「もう…」
その時、奈々がなにか企んでいるとは知
らずに休憩室を後にした。
店内はクリスマス一色でも、すぐにくる
年末年始に向け商品の仕入れをしなけれ
ばならない。
黙々とパソコン画面を睨むだけで、指は
動いてくれない。
私、なにやってるの⁇
思い浮かぶのは雅樹の隣にいる彼女。
彼女をあの腕で、抱いているのだと想像
すると涙が溢れて画面が滲む。
やだよ。
雅樹……
忘れられない…雅樹の優しい声、私に見
せる笑顔、頭を撫でる雅樹の手。
体が覚えている温もり、身体を這う指先
の感触がいつまでも消えることがない。
こんなにも、私は、雅樹に侵食されてい
たのだ。
雅樹以外の男に心を許す日が来るのだろ
うか?
雅樹と出会う前と日常はなんら変わず過
ぎていくのに、心は、あの日のままいつ
までも取り残されている。
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とうとう、クリスマスイブ。
自ら志願しラストまで仕事をしていた。
誰もいない暗く寒い部屋に帰っても、虚
しいだけなら少しでも明るい場所にいた
い。
クリスマスソングから閉店の音楽に変わ
る。
ハァー。
(この後どうしよう)
どこもカップルだらけなのに、1人で飲
む気にもなれない。
独り身の友人達は、出会いを求めクリス
マスパーティへ。
誘われたけど今の私は誰と会っても雅樹
と比べてしまうだろう。
店を閉め、更衣室で時間だけが過ぎてい
くと電話が鳴る。
音に気づき画面を見れば奈々からだった
「もしもし、どうしたの⁈」
「早希、仕事終わった⁈」
「うん。なんで…」
「あのね、トラブルで拓海が急に仕事に
なったの。レストラン予約してあるんだ
けどキャンセルするのも勿体ないし、一
緒にどうかなって電話してみたんだけど
、どう⁇」
1人で過ごすことがなくなったと喜ぶ。
「いいの⁈拓海さん仕事終わらせてくる
んじゃない⁈」