恋は盲目 Ⅱ 〜心を見せて〜
エピローグ

トン、トン、トン。

台所から聞こえる音。

鼻歌を歌い、忙しく物音をたてる。

祖父母が亡くなり、ずっと1人暮らしで

いたの俺の家に、人の気配がするのはい

つ以来だろうか?

目覚めた目をこすり、台所へ行くとそこ

には愛する早希がご飯の用意をしていた。

「おはよう…ちょうどよかったわ。今、

起こしに行こうと思ってたの」

腰に手を絡め、朝のくちづけをする雅樹


「…ほら、ご飯食べましょう」


頬を染めいつまでも変わらない早希の反

応が楽しくて仕方ない。


そう2人は、年末年始を雅樹の家で過ご

すうちに家に灯りが灯る喜びと毎回、デ

ートの度に別れる寂しさが嫌で雅樹に言

われまま引越してきたのだ。


早希に促され、椅子に腰掛ける。


テーブルの上には、アジの開きに、大根

おろし、白菜の浅漬け、ナメタケのお味

噌汁。


祖母がいた頃の食事を思い出した雅樹。


最後に、ご飯をよそう早希が口を押さえ

顔色を青白くさせている。


「大丈夫か?」


「うん…引越して来たばかりだし、緊張

してたのかも。もう、なんともないし、

ご飯食べましょう。仕事に遅れるよ」


「大丈夫ならいいんだが、無理するなよ

。お前に、飯炊きさせる為に一緒に住む

んじゃないんだから…」


いつものように頭を撫で、早希を抱きし

める雅樹。


「ほら、遅刻して怒られるわよ」


「仕方ない…夜まで我慢か…」


「『いただきます…』」


声を揃え、食事を始めた。


早希は、あまり食欲がないようで残して

しまう。


はぁ〜、胃がムカムカする。


雅樹が、慌てさせて引越しさせるから、

きっと、疲れが一気にきたのよね…

洗い物は、雅樹がしてくれたので洗濯物

を干す早希。


「いいよな…」

背後で雅樹がスーツに着替え寝室から出

てきた。


「えっ…なにがいいの⁇」

「この家に、早希がいるっていいよな…

これから毎日、ずっと一緒にいられる」


照れたように頭をかき、微笑む雅樹。


「朝から、恥ずかしいこと言わないでよ

。私だって、隣で寝ている雅樹と毎日、

朝を迎えることできて嬉しいんだから…

こうして、いってらっしゃいって言って

あげれるしね」


雅樹の肩に手を置き、少し背伸びをして

触れる唇。


早希の腰をぎゅっと抱きしめる雅樹。


やばい…かも。


「もう、時間じゃない⁈」


「まだ、5分あるから大丈夫…」


なかなか、キスを止めない雅樹は、次第

にエスカレートしていく。


ちょ、ちょっとまった〜。

「ん、んっ…ん〜」

雅樹の胸を叩く早希。


「時間切れ…残念。行ってくるよ」

(チュッ)

もう一度、軽いリップキス。


頭を撫で、玄関先へ出て行った。


壁掛け時計を見れば、時間ぴったり。

雅樹の癖…必ずキスする時は目を開け、

早希の反応を楽しんでいる。


そして、頭を触る癖。


雅樹のひとつひとつの動作にまだ慣れな

い早希。


毎日、こんなにドキドキさせられて心臓

が持つのだろうか⁈


あわてて、玄関の扉を開ける雅樹に手を

振る。


「いってらっしゃい」


笑みを浮かべ出ていく雅樹。

さぁ、私も準備しなくっちゃ〜

******************

ふー、やっぱり体調悪いみたい。

体が重く、ボーとしてくる。

「早希、大丈夫⁈熱でもあるの?」

更衣室の壁に寄りかかると壁の冷たさが

気持ちいい。

「うん…ちょっと朝から胃がムカムカし

てて、微熱っぽいから風邪でもひいたか

な?」

「早希…」

「な〜に⁈」

「生理来てる?」

「……。」

そう言えば、最後にきたのはいつ?

年末年始の発注してた時に生理で辛かっ

た…その後、きていない。

まさか……あの日。

「………奈々、どうしよう」

「きてないのね…検査薬で調べてみる⁈

それとも、病院行く⁈」

オロオロする早希を奈々が一喝する。

「早希、落ち着いて…結果が出てからこ

れからの事を考えるのよ」

「……うん…そうだよね」

なんだか、いつもと立場が逆転している

…奈々は、拓海さんに会って強くなった

自分の意見も言えるようになり、生き生

きと仕事に打ち込んでいる。


頼りになる存在。


昼休憩に、検査薬を買ってきた。


トイレの中で、便座に腰掛け結果が出る

までの数分、間違いであってほしい思い

と赤ちゃんが授かっていてほしいとの思

いに心が揺れる。


結果は、陽性。

やっぱり、あの日しか考えられない。


結果がわかれば、答えはひとつだけだっ

た。


産みたい…この命を失いたくない。

病院行って来なくっちゃ…


休日の今日、病院へ行って来た。


(妊娠6週目ですね。ご結婚されてないよ

うですが、どうされますか?)


私のお腹に雅樹との赤ちゃんが生きてる

んだ。お腹をなでるが、まだ実感がわか

ない。


(相手の方と十分に話あって、どうされる

か決めてください。)


未婚の私が、妊娠しているのだからそう

言うのは当たり前だ。


(おめでとうございます)と言われると思

っていた。


赤の他人に何を期待していたのだろう⁈

ただ、祝福して欲しかった。


まさか、機械のように感情のない言葉な

んて…


私の心は、決まっている。

雅樹に赤ちゃんを産むということを伝え

ないと…でも、それって結婚を迫ってる

思うのかな⁇


病院へ行ってから10日間、雅樹に言えず

にいるストレスと悪阻で体調を崩してい

る早希。


「ただいま…早希。大丈夫か?」


「うん…だいぶ良くなったみたい」


「なら…いいんだが、まだ、顔色良くな

いな。無理せず寝てろよ」


雅樹に促されベットに横たわる早希。


雅樹は、早希の頭を撫で頬に優しくキス

をする。


「明日、お祝いしような、おやすみ…」

「ありがとう…おやすみなさい」


寝室を出て、冷蔵庫の中から缶ビールを

出し考える雅樹。


10日前、早希が産婦人科病院から出て来

るのを偶然見かけた雅樹。


お腹に手を当て、微笑んでいた早希の顔

を思い出す。


早希の体調不良は、風邪なんかじゃない

。それなのに、言おうとしない早希に不

安になる。


たぶん、あの日に妊娠したに違いない。


あの日は誤解が解け、早希を抱きながら

夢中になり、もう二度と早希を手放した

くない思いから、避妊をしなかった。


たった一回で妊娠するなんてついてる。


俺は、報告してくれるのをずっと待って

いるのに、未だに言おうとしない早希。


自分のせいで辛く、日に日に悪くなって

いく早希を見ていられない。もう、限界

だ。


早希の誕生日。…明日がタイムミリット

だ。

******************

早希の誕生日を祝おうと休みを合わせ、

有給をとった2人。


雅樹は、目覚ましを切り早希を起こさな

いように布団から出る。


「今日は、顔色いいな」


早希の頬撫でつぶやく雅樹。


いつも、家の中のことをし、悪阻でひど

いのに無理して仕事にも行く早希。


目が覚めるまで休ませてあげよう。


早希は目をこすり、隣にいるはずの雅樹

を探す。


(うそ…今、何時なの⁇)


時計はすでにお昼を過ぎ15時を回っって

いた。


慌てて飛び起きた早希は、雅樹がいるで

あろうリビングへ急いで向かう。


そこでは、iPadで仕事をしている雅樹が

いた。


「ごめんなさい」


背後から雅樹の体に腕を絡め謝る早希。

「体、大丈夫か?」


早希の絡めた腕を優しく撫でる雅樹。

「うん…」


「ほら、顔見せてみろって…」


早希の腕を解き、膝の上に早希を座らせ

る。


「顔色いいな…今からならまだ大丈夫だ

ろうし出かけるか⁈」


優しく声をかける雅樹。


「今から⁇寝坊したのにどこに連れてっ

てくれるの?」


「内緒…着替えてこいよ」


雅樹に促され着替えにいく早希。


お腹が冷えないように普段より重ね着し

、その上からコートを羽織る。


「お待たせ…」


スーツ姿の雅樹もカッコいいけど、髪を

無造作にセットし普段着の雅樹も素敵だ

と改めて思う早希だった。


「また、俺に見惚れてるだろう…」


意地悪く笑う雅樹。


「………ち、違う…わよ」


図星を指され、言葉が詰まる早希。


「ふーん、まぁいいけどね。準備できた

なら出かけるぞ」


雅樹は、車の鍵を手に持ち足早に早希を

連れ出した。


ローヒールを履き、雅樹に連れられきた

場所。

「お墓…」


「あぁ、母さんに合わせたかったんだ。

まぁ、墓の中だけど、婚約者だって紹介

しようと思って来たかったんだ」


「うん…ありがとう。お母さんに会えな

かったもんね」


手を合わせ祈る早希。


(雅樹のお母さん初めまして、早希です。

雅樹を生んでくださってありがとうござ

います。最初は、雅樹のこと女たらしの

軽い男だと思ってました。でも、雅樹と

会って行くうちに無理に自分を偽って自

分を隠しているんだとわかったらどんど

ん好きになってました。雅樹に出会えて

とても幸せです。今、お腹の中に雅樹の

赤ちゃんがいます。まだ、雅樹は知りま

せんが、今日、伝えようと思ってます。

雅樹がなんて答えてくれるか不安です。

3人でお母さんに会いに来れるように祈

ってて下さいね。)


「長い間、母さんと何を話してた?」


「内緒…お母さんと秘密の話」


「別にいいけど、早希お前さ、俺のプロ

ポーズさらっと聞き流したよな」


えっ、プロポーズ⁇


そうだ…婚約者って言ってくれてた。


驚く早希に呆れる雅樹。


「聞いてなかったな…」


「ごめん…もう一度ってある⁇」


「はっ、あるわけないだろう…恥ずかし

いのに2度と言うかよ」


「ねぇ、お願い…私も雅樹に言いたいこ

とあるの」


「…後で聞く…とりあえず、寒いから暖

かい場所行こう」


早希と手を繋ぎ、車へ向かった。

エンジンをかけ、車を走らせる雅樹を見

つめる早希。


突然、どうしてプロポーズしてくれたの

だろう?


嬉しいはずなのに躊躇してしまう早希。

赤ちゃんのことを知ったらどんな顔をす

るのだろう?

プロポーズしてくれたのだから、喜んで

くれるよね…⁈


雅樹の車が向かう先は、家だった。

別に、レストランとかで御飯って期待し

てた訳じゃないけど、なぜ、家なの⁇

誕生日、お祝いしようなって言ってくれ

たのに…少し不満顔の早希。


「ほら、車から降りろよ」


しぶしぶ、後を追って家に入っていくと

なぜか、部屋の中は暖かくいい匂いがす

る。


えっ、どういうこと?


突然、明かりがつきクラッカーがなる。

「早希、おめでとう」

「早希さん、おめでとうございます」

「いつ、結婚式だ?」

各々に声がする。


そこには、奈々、拓海さん、そして真愛

実さんがいた。


みんな、誕生日を祝おう用意してくれて

たことが嬉しい。それを黙ってた雅樹に

は後でお説教だけど、ありがとう雅樹。


嬉し涙を流す早希。


「早希、悪阻であまり食べれないから、

雅樹さんにみんなで何か作ってくれって

『奈々…ちょっと』お願いされたの」


慌てて口を押さえるが、遅かった。

「何、慌ててるんだ」


「だって…⁈今、雅樹にお願いされた⁈

悪阻って言ったよね」


「もしかして早希、まだ話してなかった

の?」

< 49 / 50 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop