旅路
はりつめた空気
目を覚ますとカーテンから漏れた光が
床をまだら柄に変えていた。

カーテンを開け床の模様を消すと
外にはすずめではなくリスが木から木へと
飛んでいた。








高校一年生になったばかりの私は
宿題がまだ出ないことをいいことに
ネットサーフィンをしていた。
ふと平塚市のホームページを開くと
海外派遣団員募集ページにたどり着いた。
思わずクリックしたものの
ひとつ小さなため息をついた。

思い返せば2年前、私はこの募集を一度見て、
参加したいと思ったのだ
参加するには審査が必要。
審査を通ったものだけが行ける海外派遣。
海外に憧れた私の夢は一次審査も通らず断念した。

そんな苦い思い出から
今すぐこのページから目を離したかった。
他のページに移ろうとマウスを動かそうとするが、
そのマウスは不思議と応募用紙のコピーページへと移った。
『まだ間に合う。』
『もう一度。』
心の私がそう指へと伝えた。






世間はもうゴールデンウィークで
交通渋滞やらなんやらで騒いでいる頃だろう。
せわしなく自転車の鍵をとり
カチャンとだけならし私は審査の場へ向かった。


大きなホールにいくつもの長机と椅子と一枚の作文用紙が
私を迎えてくれた。
一次審査は作文審査である。
参加資格は平塚市在住、中学生から高校生までである。
周りには40人もの参加者がいた。
この中で最終審査まで残るのは10数人だろう。

『はて、隣の人…どうみても大学生ぐらいに見える…』
『あの人なんか筆箱をわすれてるよぉ…』
『私服の人もいた…私服にすればよかった』

そんなくだらないことを考えてるうちに
審査の時間がきて
あっというまに一次審査は終わった。



数日後、私の手元に封筒が届いた。
中は一次審査合格の文字だった。
高揚した気持ちを抑え
私はさっそく二次審査に向けて面接の練習をはじめた。





もう、30分はたっだろうか
時計と原稿のにらめっこを小さな個室で繰り返した。
すると、後ろから
「遠藤さん」と呼ばれ、面接室へと移動した。
ノックをして入った先には
数人の大人たちが私を見てきた。
まるで野良猫達が一匹のネズミを囲み
じりじりと近づきいつ襲いかかるか
タイミングをはかっているようだった。
そしてはりつめた空気の中
私は質問に答えていった。

今となってはこの時自分が何を言ったか
覚えていない。





数日後、結果は前回と同様封筒で知らせがきた。
焦る気持ちをなんとか押し込め
三つ折りの紙に合格の文字を見つけた。







まだ、梅雨に入る前の空は
爽やかな風が吹き春の終わりを教えてくれた。
そして、新たな夏の始まりを知らせてくれた。

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