【完】復讐の元姫
「大丈夫だから、汐乃」
「時、雨」
「安心しろ」
時雨が、汐乃を抱きしめた瞬間。
汐乃はそこで、泣き崩れた。
……なんで、なんだろうな。
汐乃が俺のこと想ってくれてるって、わかってんのに。
「時雨……っ」
俺じゃない男の名前を呼んで、泣くその姿が遠い。
奈々を振り払って、無理にでも汐乃を抱きしめればいいのに。
そんなことする気力が、出てこなかった。
「麗、怖かった」
「………」
「私、どうなるかと思った……っ」
裏切り者で、ありながら。
そうやって涙を流す奈々を、俺はただ冷めた目で見おろしていただけだった。
【麗sideend】