アマリリス
第10話
(side story 5)
背後の小屋から流れて来るバイオリンの音にタスはハッとし振り向く。そこには真っ白なドレスに透き通るような白い肌、輝くようなブロンドの髪をした女性が、バイオリンを優雅に引いている。その姿とブルーの瞳を確認した瞬間、タスの中にあった想いがはじける。
(間違いない! レオを助けたのはこの女性だ!)
確信に近い想いが全身を包んだ瞬間、ふいに足元から声がする。
「君がさっきから言っているレオ君は、エマが救ったアマリリスだよ」
サッと振り向くと、アマリリス達が凛としてタスに向かっており、レオに感じていた雰囲気を感じる。
(まさか、また声が!)
心が温かくなり嬉しさのあまり思わずタスは口に出して問う。
「今の話は本当?」
「本当だとも。彼女は私たちに水を与えるとき、よくその話をしてくれたからね。そうか、レオは君と共に面白くも良い生き方をしたんだね」
良い生き方をしたと聞き、タスは嬉しくて涙を流す。
「そうだとも、僕の親友はとても賢くお節介で頑固で、でも良いヤツだった。彼の想いを届けるため僕はここまでやってきたんだ」
「そうか、それはエマも喜ぶだろう。そして、私たちも君に礼を言いたい。君の魂溢れる演奏が彼女の心の扉を開け放った。彼女は今この瞬間、孤独から解放されたのだ」
アマリリスの言葉に再度小屋を向くと、エマが扉を開けバイオリンを引きながらタスの方に歩み寄って来る。目の前まで来るとお互いにバイオリンを肩から下し見つめ合う。目が合った瞬間、言いようない感覚に包まれ全身が温かくなっていく。
「僕はタス」
「私はエマ」
お互いに一言だけ交わすと、どちらともなく寄り添い抱き締め合う。アマリリスはその姿を見て語り始める。
「これからは二人でコンチェルトを奏でると良い。呼吸を合わせないと演奏できないコンチェルトだが、君達ならば問題ない。互いの意見や音を主張しながらも、それを良きものへと昇華していくだろう」
アマリリスの言葉に二人は同時に頷き、驚き顔を見合わせる。
「エマ、もしかして君って花の言葉が?」
「ええ、タスも?」
「ああ、レオっていうアマリリスと知り合ってからね。そうだ、エマにまず聞いて貰いたい話があるんだよ。とても理知的で賢かった親友の話……」
その日は互いの人生を語り合い、それは夜更けまで続いた。レオとの可笑しく楽しい冒険譚に笑い、その最後に二人は涙した。そしていつの日か二人で、レオが埋まっている地に赴こうと約束する。
それからの日々は、花々の声に導かれるように、二人で助け合い力を合わせたくさんの花を育てながら、愛の賛歌を奏でた。二人の奏でるメロディーに人々は癒され時に涙し笑った。その愛のメロディーは死が二人を別つまで奏で続けられ、終世幸せに包まれていた。ただ一つ気がかりだったのが、レオの眠る地が分からず弔えなかったこと。きっと天国で会えるとエマは語りタスもそれに頷いた――――
――現代、幾年の時を経て彼の願いは実を結ぶ。正確に表現するならば彼の意志を引き継ぐ者となる。それはある意味、花の声を聞くという能力以上のものであり当初彼自身を混乱させるような現象でもあった。さりとて、心の中にある強く熱い意志は拭い去りようのないもので、今となっては彼の生きる意味の根幹となっている。
本社から受けた県外スーパーへの辞令を眺めつつ彼は一人苦笑し呟く。
「また違う地に転勤か。ホント僕って昔から根無し草だな。まあでも、その方が彼らに出会う可能性も出てくるし良いんだけど」
受け取った辞令を内ポケットにしまうと彼は颯爽とした足取りでフロアを後にした。
背後の小屋から流れて来るバイオリンの音にタスはハッとし振り向く。そこには真っ白なドレスに透き通るような白い肌、輝くようなブロンドの髪をした女性が、バイオリンを優雅に引いている。その姿とブルーの瞳を確認した瞬間、タスの中にあった想いがはじける。
(間違いない! レオを助けたのはこの女性だ!)
確信に近い想いが全身を包んだ瞬間、ふいに足元から声がする。
「君がさっきから言っているレオ君は、エマが救ったアマリリスだよ」
サッと振り向くと、アマリリス達が凛としてタスに向かっており、レオに感じていた雰囲気を感じる。
(まさか、また声が!)
心が温かくなり嬉しさのあまり思わずタスは口に出して問う。
「今の話は本当?」
「本当だとも。彼女は私たちに水を与えるとき、よくその話をしてくれたからね。そうか、レオは君と共に面白くも良い生き方をしたんだね」
良い生き方をしたと聞き、タスは嬉しくて涙を流す。
「そうだとも、僕の親友はとても賢くお節介で頑固で、でも良いヤツだった。彼の想いを届けるため僕はここまでやってきたんだ」
「そうか、それはエマも喜ぶだろう。そして、私たちも君に礼を言いたい。君の魂溢れる演奏が彼女の心の扉を開け放った。彼女は今この瞬間、孤独から解放されたのだ」
アマリリスの言葉に再度小屋を向くと、エマが扉を開けバイオリンを引きながらタスの方に歩み寄って来る。目の前まで来るとお互いにバイオリンを肩から下し見つめ合う。目が合った瞬間、言いようない感覚に包まれ全身が温かくなっていく。
「僕はタス」
「私はエマ」
お互いに一言だけ交わすと、どちらともなく寄り添い抱き締め合う。アマリリスはその姿を見て語り始める。
「これからは二人でコンチェルトを奏でると良い。呼吸を合わせないと演奏できないコンチェルトだが、君達ならば問題ない。互いの意見や音を主張しながらも、それを良きものへと昇華していくだろう」
アマリリスの言葉に二人は同時に頷き、驚き顔を見合わせる。
「エマ、もしかして君って花の言葉が?」
「ええ、タスも?」
「ああ、レオっていうアマリリスと知り合ってからね。そうだ、エマにまず聞いて貰いたい話があるんだよ。とても理知的で賢かった親友の話……」
その日は互いの人生を語り合い、それは夜更けまで続いた。レオとの可笑しく楽しい冒険譚に笑い、その最後に二人は涙した。そしていつの日か二人で、レオが埋まっている地に赴こうと約束する。
それからの日々は、花々の声に導かれるように、二人で助け合い力を合わせたくさんの花を育てながら、愛の賛歌を奏でた。二人の奏でるメロディーに人々は癒され時に涙し笑った。その愛のメロディーは死が二人を別つまで奏で続けられ、終世幸せに包まれていた。ただ一つ気がかりだったのが、レオの眠る地が分からず弔えなかったこと。きっと天国で会えるとエマは語りタスもそれに頷いた――――
――現代、幾年の時を経て彼の願いは実を結ぶ。正確に表現するならば彼の意志を引き継ぐ者となる。それはある意味、花の声を聞くという能力以上のものであり当初彼自身を混乱させるような現象でもあった。さりとて、心の中にある強く熱い意志は拭い去りようのないもので、今となっては彼の生きる意味の根幹となっている。
本社から受けた県外スーパーへの辞令を眺めつつ彼は一人苦笑し呟く。
「また違う地に転勤か。ホント僕って昔から根無し草だな。まあでも、その方が彼らに出会う可能性も出てくるし良いんだけど」
受け取った辞令を内ポケットにしまうと彼は颯爽とした足取りでフロアを後にした。