アマリリス
第16話
連絡を取ると大輝は直ぐに会えると言い、遅い時間ながらも自宅近くのファミレスで落ちあうことにする。久しぶりに会うことに少し緊張するが、澪との関係も気になり、今回の話で全てを聞いてしまおうと心積もりを抱く。先に座って待っていると遅れて大輝が現われる。久しぶりの顔に嬉しく思う気持ちが湧くが、それも押し殺してしっかりとした姿勢で向き合う。
「美玲さん、久しぶり。元気そうだね?」
「お蔭様で。大輝君もお変わりない?」
「僕の方は……、まあ、ぼちぼちかな」
「何かあった?」
少し顔色が曇る様子を見逃さない。
「澪が一週間前に亡くなった。最期は笑顔で逝ったよ」
全く予想してなかった返しに美玲はショックで口元を押さえる。
「前の病院から転院したのも、治療ではなく終末期療養の部分が大きかったし覚悟はしてたよ。でも、いざ居なくなると心の一部が喪失したような感覚に捉われてて、自分でもこの気持ちをどう処理して良いか分からない面もある」
穏やかな表情で語る大輝とは対照的に美玲は俯き苦渋の表情を見せる。
「さっきも言ったように澪は最期、笑顔で逝った。動けるうちに由美香ちゃんにも会えたから悔いはないって言ってたよ」
由美香の名前が出てパッと顔を上げる。
「澪さんは由美香に何を言ったの?」
「それは分からない。ただ、僕にとって良いことだとは言ってたよ」
(大輝君にとって良いこと? 意味が分からない。今の由美香を見たらどう考えても私達の仲を裂いたような発言をしたとしか考えられないのに)
考え込む美玲に大輝は問う。
「美玲さんからは今日どんな話が?」
「え、ああ、ごめんなさい。今の話と付随するんだけど、この前のこと、ちゃんと聞きたいと思ったの。澪さんが自殺未遂したのは私のせいではないって話」
「ああ、あれか。あれはその通りだよ。澪は僕と美玲さんが早く一緒になれるようにって、勝手に暴走して自殺未遂を起こしたんだ。まあ、辛い闘病生活に嫌気が差していたってこともあったけど。後で散々怒ってやったけどね」
考えもしなかった澪の想いに触れ、再びショックを受ける。
「そんな、澪さんは私達の事を想って?」
「うん、そう言ってた。これは推測だけど、由美香ちゃんに会って話した内容も、それに近かったんじゃないかと思う。僕達のせいで自殺未遂したんじゃない的な感じでね」
「そうだとしたら、なんで由美香は私を避けるの?」
「え、避けられてるの?」
(しまった、つい出てしまった)
「ええ、恥ずかしい話だけど、私達の関係を澪さんから聞いたと思われる日以降、避けられてるの。だから悪く取られてるもんだとばかり思ってた。だから今の話を聞いてビックリしてる」
「そうか、これは澪が言ってたことだから本心がどうであったかまでは分からないな。澪が嘘を吐いていたら避けられる辻褄が合う。本当なら由美香ちゃんが避けている理由が他にある、って感じかな」
「大輝君という名前に敏感になってるから、絶対私達絡みだと思うけど、その理由はもっと深い部分にあるのね?」
「現状推測すると、だけどね」
「分かったわ。近いうちにちゃんと由美香に聞いてみる。澪さんの件も理解できたし」
「うん、そうした方がいい。僕も仲の良い母娘に戻ってほしいからね」
大輝からの優しい言葉に礼を述べると、美玲は直ぐに席を立つ。その様子を見て、大輝は慌てて立ち上がる。
「ちょっと美玲さん!」
「ん、何?」
「五分、いや、三分でいいのでお話が」
「ごめんなさい、ちょっと忙しなかったわね。どうぞ」
席に座る美玲を見てホッとする。
「前に公園で言った別れるって言葉は今でも変わっていませんか?」
「あ、あれは……、そうね。勘違いだったものね。撤回するわ」
「良かった。あと、もう一つ。四十九日が過ぎたら、また前のように会いたいです。構いませんか?」
大輝からの嬉しい言葉に胸が熱くなる反面、澪の気持ちや想いも混在し美玲は返答に窮する。
「少し考えさせて欲しい。由美香との件もまだありますし、まだ心の整理が付いていないというのが本当なので」
「分かりました、ずっと待ってます」
「ありがとう、じゃあ、また」
神妙な顔をし去っていく美玲を、満たされたような笑顔で見送っていた。